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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)8609号 判決

原告 岩崎一

被告 国

訴訟代理人 真鍋薫 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金一七九、〇〇二円を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一、原告は被告に雇傭され、いわゆる駐留軍労務者として、米軍佐世保石油廠に勤務している者である。

二、駐留軍労務者のうち技能工系統労務者の給与は駐留軍技能工系統労務者給与規程(昭和二三年特調庶発第四四六号)及び右規程の実施細目である連合国軍関係常傭使用人の給与に関する要綱細目(昭和二二年五月二九日絡設労合第四一九号、以下要綱細目という。)によつて規律されているところ、右給与規程第一三条には爆発物を取扱う作業又はこれに近接してなす作業で危険を伴う場合には、一時間につき基本給与月額(役付者にあつてはこれに役付手当を加えた額)の一七六分の一(労働時間は一日八時間、一週五日であるから労働日数は月平均二二日となり、労働時間は月一七六時間の計算となる。)の三割以内の特殊作業手当を支給するとの規定があり、右要綱細目に付属する特殊作業手当支給標準表(昭和二六年五月九日特労発第九七五号、以下支給標準表という。)によれば、雑役夫、荷扱夫、運搬夫、ガード、爆発操作工、爆発処理夫、その他技能工系統及び事務系統使用人にして爆発性、発火性若くは強力引火性危険物の処理、貯蔵、運搬等の作業を行う者には三割、これらの職種に属する者で右記載の作業現場に近接して警戒その他の作業に従事する者には二割、これらの職種に属する者で右作業現場より六〇〇米以内の区域において警戒その他の作業に従事する者には一割の特殊作業手当を支給すると定められ、右にいわゆる強力引火性危険物としてガソリン(屋外集積を除く)を挙げている。

三、而して右支給標準表は、これと異る別段の契約のない限りこれを労働条件として労働契約の内容を決定する性質のものであるところ、原告と被告間には右支給標準表と異る別段の契約はないから、右支給標準表の実施期日である昭和二六年七月一日以降は右支給標準表に定める内容が原告と被告との間の労働契約の内容となつたものであるところ、原告は昭和二六年三月一日以降ポンプオペレーター兼整備工として佐世保石油廠内ポンプハウスにおいて、その労働時間の全時間を油運送船からタンクへのガソリンの受入、船舶、タンク車、タンクトラツク、ドラム等へのガソリン供給のためのポンプの運転その他バルブの操作等の作業に従事しており、右作業は前記支給標準表の爆発性、発火性若くは強力引火性危険物の処理、貯蔵、運搬等の作業を行うものに該当するので、原告は原被告間の労働契約の内容となつて標準表により基本給与月額の三割に相当する特殊作業手当の請求権を有するものである。

四、仮りに右主張が理由がないものとしても、原告は全駐留軍労働組合(以下全駐労という。)の組合員であるところ、昭和二七年二月上旬全駐労佐世保支部と駐留軍労務者の給与に関し協約締結の権限を有する佐世保渉外労務管理事務所長との間に、原告に対し同年二月一日以降右支給標準表により特殊作業手当を支給すべき旨の労働協約が成立し、その後同年三月下旬右全駐労佐世保支部と佐世保渉外労務管理事務所長との間に同年三月一日から原告等組合員に対し一率二割の特殊作業手当を支給する旨の労働協約が成立したので、原告は右労働協約の定めるところにより同年三月一日以降基本給与月額の二割に相当する特殊作業手当の請求権を有するものである。

五、仮りに右全駐労佐世保支部と佐世保渉外労務管理事務所長との合意が労働協約としての形式に欠けるところがあるとしても、右契約は原告等組合員のためにするいわゆる第三者のためにする契約たる効力を有するものであるところ、被告は原告に対し昭和二七年二月以降支給標準表に基く特殊作業手当を支給し、更に同年三月以降は基本給与月額の二割に相当する特殊作業手当を支給し、原告はいずれもこれを受領して受益の意思表示をなしたのであるから、原告は右契約により昭和二七年三月一日以降基本給与月額の二割に相当する特殊作業手当の請求権を有するものである。

六、仮りに佐世保渉外労務管理事務所長が右の如き契約を締結する権限を有しなかつたとしても、佐世保渉外労務管理事務所長は給与の支払及び特殊作業手当の支払につき代理権を有していたのであるから、全駐労佐世保支部が右労務管理事務所長に前記の如き契約を締結する権限があると信ずるについては正当の理由があり、従つて被告は民法第一一〇条により右労務管理事務所長の締結した前記契約につきその責に任ずべきである。

七、しかるに被告は昭和二九年二月一日以降原告に対する特殊作業手当の支給を打切りこれを支払はない。

而して原告の右日時以降昭和三二年一二月末日までの基本給与月額及び役付手当月額並びにこれらの二割に相当する額は別紙のとおりであるから、原告は被告に対し昭和二七年二月一日以降昭和三二年一二月末日までの右計算による特殊作業手当合計金一七九、〇〇二円の支払を求めるため本訴請求に及ぶと述べ、

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、

一、請求原因一及び二の事実は認める。

二、請求原因三の事実中、支給標準表が原告主張のような性質のものであること、支給標準表実施の日である昭和二六年七月一日以降は労働契約の内容に特殊作業手当の支給に関する事項も含まれることとなつたことは認めるが、原告の従事する作業が支給標準表所定の危険作業に該当することは否認する。

三、請求原因四の事実は否認する。

四、請求原因五の事実中、原告に対し昭和二七年二月以降原告主張の率による特殊作業手当を支給していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

五、請求原因六の事実中労務管理事務所長が原告主張のような権限を有していたことは認めるけれどもその余の事実は争う。

六、請求原因七の事実中、昭和二九年二月一日以降特殊作業手当の支給を打切つたこと、昭和二九年二月一日以降昭和三二年一二月末日までの原告の基本給月額及び役付手当額及びその二割に相当する金額が原告主張のとおりであることは認める。

七、駐留軍労務者は昭和二三年法律第二五八号(国家公務員法の一部改正に関する法律)により同年一二月二一日以降特別職の国家公務員とされ、その給与の種類、額、支給条件及び支給方法は特別調達庁長官が大蔵大臣と協議して決定することになつており(昭和二四年法律第二五二号特別職の職員の給与に関する法律、第一一条)、同長官は従来の各規程、要綱細目及びそれに付属する支給標準表を大蔵大臣との協議を経てこれを同長官の定めたものとして実施に移し、その後昭和二六年七月一日同長官は支給標準表を改正し(昭和二六年五月九日特労発第九七五号)、大蔵大臣と協議の上これを実施した。その後駐留軍労務者は、日本国との平和条約の効力の発生及び日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障第三条に基く行政協定の実施等に伴い国家員務員法等の一部を改正する法律(昭和二七年法律第一七四号)により昭和二十七年四月二八日以降特別職たる国家公務員から除外され、その給与その他の勤務条件は調達庁長官の決定するところによること(第九条第二項)、その給与その他の勤務条件については、調達庁長官が第九条第二項の規定により定めるまでの間は同項の規定にかかわらず条約の効力発生の日において定められている連合国の需要に応じ連合国のために労務に服する者の給与その他の勤務条件の例によること(附則第二項)とされたが、調達庁長官は条約発効の日までに従来の各規程、要綱細目及び支給標準表と異る別段の定めをしなかつたので、従来の各規程等が調達庁長官の定めたものとして運用されているものである。

而して右の如き経緯を経て駐留軍労務者のうち技能工系統労務者の給与は、原告主張の駐留軍技能工系統労務者の給与規程(昭和二三年特調発第四四六号)、その実施細目である要綱細目(昭和二二年五月二九日絡設労合第四一九号)及び支給標準表(昭和二九年五月九日特労発第九七五号)によつて規律されてきたのであつて、右給与規程一三条に原告主張の如き特殊作業手当の支給に関する規定があり、更に右支給標準表に爆発性、発火性若くは強力引火性危険物の処理、貯蔵、運搬、警戒等の作業及びこれら危険物に近接して行う作業に従事するものに対しては、その危険の度合に応じて三割、二割、一割の特殊作業手当を支給するものと定められ、その発火性危険物としてガソリン(屋外集積を除く)を指定していることは原告主張のとおりであるけれども、右支給標準表には更に、かゝる危険物を取扱い又はこれに近接して行う作業であつても、その地形、設備、危険物の性質、数量により危険性がないと認められたものは、この手当を支給しないと規定されているのである。

以上の法律、規程等によれば、駐留軍労務者に関する給与は調達庁長官の定めるところによるものであり、特殊作業手当の支給は調達庁長官(委任機関を含む。)において、労務者の作業が支給標準表所定の作業に該当し且つ危険性があると認定し、そのことによつて始めて支給されることとなるのであつて、労務者との合意又は労務者の承諾を要しないことは勿論、調達庁長官(委任機関を含む。)が前記の認定をなしてその支給決定をしない以上、労務者は右手当の支給をうけることはできないものである。

佐世保石油廠においては、原告主張のとおり、昭和二七年三月以降一率二割の特殊作業手当を支給していたけれども、それは原告主張の如く佐世保渉外労務管理事務所長と全駐労佐世保支部との間に労働協約ないし第三者のためにする契約が成立したためではなく、同廠が危険区域でもなく且つ作業には何等の危険性もないのに労務管理事務所長がその認定を誤り、支給標準表に定めのない一率二割の特殊作業手当を支給する旨の決定をしたためであつて、本来右の如き決定はなすべきものではなかつたのであるから、調達庁長官は前述の権限に基き同廠の作業には危険性がないと認め、昭和二九年二月一日以降特殊作業手当の支給をしない旨決定し、その支給を打切つたのである。

従つて改めて調達庁長官の危険性の認定がない以上、原告に対し特殊作業手当を支給しないのは当然であつて、原告は右日時以降右手当の請求権を有するものではないから、原告の請求は失当であると述べた。

立証〈省略〉

理由

原告が被告に雇傭される、いわゆる駐留軍労務者であつて、米軍佐世保石油廠に勤務している技能工系統労務者であることは当事者間に争がない。

そして原告は第一にその従事する作業が被告との間の労働契約の内容となつている連合国軍関係常傭使用人給与に関する要綱細目(昭和二二年絡設労合第四一九号)及びこれに付属する特殊作業手当支給標準表(昭和二六年五月九日特労発第九七五号以下支給標準表という。)所定の作業に該当するので、右支給標準表所定の特殊作業手当請求権を有すると主張する。

よつて先づ駐留軍労務者のうち技能工系統労務者の給与がどのように規律決定されるかについて考察すると、いわゆる駐留軍労務者は、昭和二三年法律第二五八号国家公務員法の一部を改正する法律により昭和二三年一二月二一日より国家公務員となり、その給与の種類、額、支給条件及び支給方法は昭和二四年法律第二五二号特別職の職員の給与に関する法律により特別調達庁長官が大蔵大臣と協議して定めること(同法第一一条)となり、その後駐留軍労務者は昭和二七年法律第一七四号日本国との平和条約の効力の発生及び日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施等に伴い国家公務員法等の一部を改正する法律により、国家公務員でないこととなり(同法第八条)、その給与その他の勤務条件は生計費並びに国家公務員及び民間事業の従事員における給与その他の勤務条件を考慮して調達庁長官が定めること(同法第九条第二項)となり、その給与その他の勤務条件については、調達庁長官が第九条第二項の規定により定めるまでの間は、同項の規定にかかわらず、条約の効力発生の日において定められている連合国の需要に応じ連合国軍のために労務に服する者の給与その他の勤務条件の例による旨定められ(同法附則第二項)、右諸条項は条約効力発生の日から適用された(同法附則第一項)。

而して弁論の全趣旨によれば、駐留軍労務者のうち技能工系統労務者の給与について定めた駐留軍技能工系統労務者給与規程(昭和二三年特調庶発第四四六号)とその施行細目である連合国軍関係常傭使用人の給与に関する要綱細目(昭和二二年五月二九日絡設労合第四一九号)が右昭和二四年法律第二五二号に基き特別調達庁長官の定めたものとして実施され、同長官は更に同法に基き昭和二六年五月九日特労発第九七五号をもつて右要綱細目に付属する特殊作業手当支給標準表を制定し、右規程、要綱細目及び支給標準表等によりその給与が規律され、右昭和二七年法律第一七四号の施行後も同法附則第二項により右規程等がそのまま運用されてきたことが明かである。

次に、本件において問題となつている特殊作業手当の支給についてどのように規律されているかをみるに、いずれも原本の存在とその成立に争がない甲第一号証、甲第三号証、甲第四号証(乙第九号証)によれば、連合国軍関係技能工系統使用人給与規程には、高圧電線、高熱物、爆発物若くは劇毒物を取扱う作業又はこれに近接してなす作業で危険を伴う場合は一時間につき基本給与月額の一七六分の一(役付者にあつては役付手当を加えた額)の三割以内に相当する額の特殊作業手当を支給する旨、連合国関係常傭使用人の給与に関する要綱細目に付属する連合国使用人特殊手当割増標準表を改正した昭和二六年五月九日特労発第九七五号(支給標準表)によれば雑役夫、荷扱夫、運搬夫、ガード、爆発操作工、爆発処理工その他PW(一般職種別賃金系統使用人)及び事務系統使用人で、爆発性発火性若くは強力引火性危険物の処理、貯蔵集積、運搬、警戒等の作業及びこれらの危険物に近接して行う作業の場合の支給基準及び率は、(一)爆発性、発火性若くは強力引火性危険物の処理、貯蔵、集積、運搬等の作業を行うものには三割、(二)右(一)の作業現場に近接して警戒その他の作業に従事するものには二割、(三)右(一)の取扱作業現場より危険のおそれある距離(概ね六〇〇米)内の区域において警戒その他の作業に従事するものには一割とすること、但し右(一)(二)及び(三)の場合であつても、地形、設備及び危険物の性質数量にまり危険性がないと認められたものにはこの手当を支給しない旨定められている。

ところで原告の主張するところは前記のように原告の従事した作業は支給標準表の危険物の処理運搬等の作業に該当するので、原被告間の労働契約の内容となつている支給標準表により月額三割に相当する特殊作業手当の受給権を有するというに在る。

そして右支給標準表の記載は労働契約の内容となるべき事項に関する基準を示すものと解するのが相当であるけれども労働者の作業が客観的に右支給標準表に記載の作業に該当するときはこれによつて当然に労働契約に基ずく具体的の特殊作業手当請求権を取得するかどうかは更に検討を要するところである。

けだし労働契約の内容となるべき事項に関する基準の規定の趣旨及び内容の如何によつて、その規定の作業に従事するという客観的事実の存在が当然に労働契約上の具体的な対価請求権を発生させるかどうかを判定すべきだからである。

よつてこの観点に基ずいて本件を考察するに、前記支給標準表には前記のように作業が(一)(二)(三)の場合に該当しても地形、設備及び危険物の性質数量等具体的事情により危険性がないと認められたものにはこの手当は支給されないとの規定が存在するので運用には使用者の意思決定を必要とする旨定めていること及び弁論の全趣旨と成立に争ない甲第五号証の記載によれば佐世保石油廠においては多数の駐留軍労務者が危険度の異る種々の作業に従事しているので労務者個々につき具体的に右支給標準表の該当項目と危険性の有無を決定することは著しい困難のあることが認められ、この事情は他の作業場においても大差のないことが推測される。そしてこの事実と成立に争ない乙第四、五号証の記載によつて認められる給与の決定は調達庁又は地方庁のなすものであるが、調達庁長官に対し労務者の諸手当は渉外労務管理所長が法令又は規程等に基ずいて軍機関と密接な連絡を保ちその協力を得て適正に決定すべきものと指示命令していることを総合すれば、前記支給標準表の記載は労働契約の内容となるべき事項に関する基準を示すものであるけれどもその規定に該当する作業に従事するという客観的事実の存在によつて当然に労働契約上の具体的な特殊作業手当請求権を発生させるものでなく調達庁長官又はその受任者である渉外労務管理所長において、労務者の従事する作業が特殊作業手当を支給すべき所定の作業に該当するか否か、当該作業が危険性のある作業か否かを判断し、これを支給すべき旨を決定し、これによつて始めてその手当を請求する権利が発生するものと認めるのが相当である。

したがつて労務者が現実に支給標準表に定める危険性ある作業に従事する場合に、その旨の認定をしないで手当を支給しないときは、その規定を誠実に履行しないという責任を負うに過ぎないものというべきである。

本件において、昭和二七年二月以降昭和二九年一月まで原告に対し、特殊作業手当が支給されてきたことは当事者間に争がないけれども、昭和二九年二月以降は被告が右手当の支給を打切りこれを支給しないことも亦当事者間に争がなく、原本の存在及びその成立につき争がない乙第三号証と証人福富庄三郎の証言によれば、昭和二九年二月以右手当の支給を打切つたのは、駐留軍労務者の給与計算及び支払に関する事項について権限を有する佐世保渉外労務管理事務所長において、佐世保石油廠の作業は特殊作業手当を支給する場合に該らないと認定し、右手当の支給を打切つたものであることが認められるから、昭和二九年二月以降は改めて原告の従事する作業について危険性が認定され、特殊作業手当を支給する旨の決定がなされれば格別、しからざる限り原告は右手当の支給をうけることができないものといわなければならない。

しからば、右のような決定の存在の主張のない本件では原告の特殊作業手当支給標準表に該当の作業をなしたことを理由とし、特殊作業手当請求権を有するとの主張は、作業が右に該当するかどうか等の点について判断するまでもなく理由がないといわざるを得ない。

次に第二に原告は全駐留軍労働組合佐世保支部と佐世保渉外労務管理事務所長との間にその主張の如き内容の労働協約ないし第三者のためにする契約が成立したと主張するけれども、これを認めるに足る証拠はない。

もつとも、昭和二七年二月以降昭和二九年一月まで原告に対し特殊作業手当が支給されてきたことは当事者間に争がなく、証人吉永寿一の証言及び原告本人尋問の結果によれば、昭和二七年二月には佐世保石油廠に勤務する労務者に対し、職種により三割、二割、一割の割合により、又昭和二七年三月以降昭和二九年一月までは右割合による支給を改め、同廠に勤務する労務者に対し一率二割の割合による特殊作業手当が支給されてきたこと、同廠に勤務する労務者に対し右の特殊作業手当を支給するに当つて、組合側と佐世保渉外労務管理事務所側との間に話合が行はれ、組合側の了解を得ていたことが認められるけれども、前記のとおり、特殊作業手当の支給は調達庁長官従つてその権限の委任をうけている労務管理事務所長の決定によるものであることと、証人吉永寿一の証言によつて認められる、組合側が以前から特殊作業手当を支給すべきことを要求していたこと等に照せば、佐世保渉外労務管理事務所長は特殊作業手当の支給について組合との間に無用のまさつを生ずることを避けるため組合側と話合い、その了解を得たにすぎないものと解されるから、これによつて原告主張の如き労働協約ないし第三者のためにする契約が成立したものと認めることはできない。

従つて、全駐留軍労働組合と佐世保渉外労務管理事務所長との間に労働協約ないし第三者のためにする契約が締結されたことを前提とする原告の主張も、爾余の点について判断するまでもなく理由がないといわねばならない。

以上のとおりであつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 西川美数 大塚正夫 伊藤和男)

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